デジタルモーターエレクトロニクスは以下の機能を受け持ちます:
イグニッションをオンにすると、まずすべてのシリンダーで一度短く噴射させます。始動動作の開始から、シリンダー別で各燃焼サイクル(クランクシャフト2回転)毎に1回噴射されます。
噴射時間(ti)は、プログラミングされた始動時の基本噴射量およびエンジン水温と吸気温度のインプット信号からの修正値を基に算出されます。シリンダーコントロールはレファレンスマーク信号(クランクシャフトセンサー)を基にしています。
わずかにエンジンが回転した後(カムシャフトの位置および始動回転数に関係する)、DMEコントロールユニットは、カムシャフトポジションセンサー信号を受け取ります。
カムシャフトポジションが検知されるまで、原則としてダブルイグニッションが行われます(クランクシャフト1回転につき1回の点火)。ここで、シリンダー識別を修正すべきかどうかを決定します。
エンジンが回転してもカムシャフトセンサー信号が検知されない場合は、ダブルイグニッションを継続します。しかし、この場合噴射が正しいサイクル(パワーサイクル)で行われるかどうかは保証されません。
加速時エンリッチメントは、ドライバーによる負荷要求がある場合(スロットルバタフライのポテンションメーター信号)、およびエンジン回転数により必要となるときは、常に作動します。この場合、噴射時間をすでに過ぎたシリンダーには中間噴射が行われます。次のシリンダーではエンリッチメント(濃厚化)を行うために正規の噴射時間(ti)が延長されます。
DMEM3.3には、フルシーケンシャルフューエルインジェクションCIFIを採用しています。CIFIは各シリンダーを個別に制御し、各シリンダーの噴射は、確実にインテークバルブが開く前に終了します。これにより最適な空燃比と同時に、少ない燃費による最高の燃焼を達成します。
イグニッションシステムまたはインジェクションシステムに故障が発生した場合、各シリンダーの噴射は別々に遮断されます。この故障はディフェクトメモリーへも登録されます。
各シリンダー毎にファイナルステージ制御専用のイグニッションコイルがあり、スパークプラグキャップを介して高電圧(最高32kV)が供給されます。これによって、点火時期の遅角をすばやく、また独立して調整することができます。
回転部品が廃止されたことによって、点火時期制御用として利用できる範囲が広くなっています。正しい点火順序を維持するため、カムシャフトセンサーを取り付けています。
点火時期は、回転信号および負荷信号に基づいてDMEコントロールユニットで算出され、イグニッションファイナルステージを介して出力されます。ここではエンジン水温、吸気温度、スロットルバタフライ位置、アンチノックコントロール、アダプティブトランスミッションコントロールなどのインプット信号も考慮します。
シリンダー識別センサー(カムシャフトセンサー)の故障の場合、同時点火に切り換わります。すなわち、それぞれのシリンダーのイグニッションコイルは、クランクシャフトが回転するたびに固定されたイグニッションタイミングで制御されます。
イグニッション回路のモニターにより、ミスファイアはシリンダーごとに検知され(自己診断)、キャタライザーの損傷が防止されます。異常のあるシリンダーの噴射は停止されるので、排ガス値を悪化させません。
二次回路モニターは「シャント抵抗」(8個のイグニッションコイル共通の二次側のグランド配線の抵抗)で行います。点火するごとに、シャントの電圧変動はコントロールユニットに伝送されます。
正常な点火の後(シリンダー別一次回路モニターが正常)、ミスファイア検知用の動作限界電圧(5V)に達しない場合、故障はメモリーされ、故障表示ランプが点灯し(米国仕様のみ)該当するインジェクションのファイナルステージが遮断されます。
M60エンジンでは、アイドルコントロールバルブとして、耐摩耗型の新型2コイルレギュレーターが取り付けられています。アイドルコントロールバルブ内のロータリーバルブは、テスターを介したシミュレーション、または振動運動によってのみ点検してください。ロータリーバルブを指やドライバーのような工具で動かすことは絶対にやめてください。その場合、完全な機能を保証できなくなります。
アイドルコントロールバルブには複数の機能を受け持ち、エンジンの吸気回路の重要なコンポーネントです。
たとえば、ベローズ/フランジ部からのわずかなエア漏れや、スロットルバタフライの基本調整が規準値よりわずかに外れている場合なども、アイドルコントロールバルブを通じて補整することができます。
エンジンの惰行段階でアイドルコントロールバルブは全開になり、アイドル回転数に達する直前に閉まります。これによって、エアコレクター内部の高いバキューム圧およびブルースモーク(バルブステムシールからのオイル混じりの混合気吸入)を防ぐことができます。
アイドルコントロールバルブは、エンジン始動時にはアイドル回転のときよりも大きな開口部断面になります。これによって、エンジンの始動性を一層改善しています。
アイドルコントロールバルブにはエマージェンシーギャップがあり、電源が遮断された場合に一定のエマージェンシー特性を確保します。
ASCまたはASC+T装着車の場合、エンジンブレーキトルクはアイドルコントロールバルブを通じてコントロールされます(MSR機能)。駆動輪がロックする危険がある場合、アイドルコントロールバルブが開き、これによって回転数を上昇させ、エンジンブレーキ時のトルクを減少させます。
ノッキングした状態でエンジンを長い間作動させると重大な損傷を招きます。ノッキングの発生する要因:
圧縮比は堆積物や製造時のばらつきによっても高くなります。
アンチノックコントロールのないエンジンの場合、こうした点火時の好ましくない影響に対し、ノッキング限界に対するセイフティマージンを用意することによって解決しなければなりません。その場合、高負荷域の効率低下は避けられません。
アンチノックコントロールによって、エンジン作動中のノッキングを防止することができます。実際にノッキングが発生する恐れがある場合だけ、該当するシリンダーの(シリンダー別)点火時期を必要なだけ遅らせます。これにより、ノッキング限界を考慮せずに点火特性マップを最適燃費値に設定でき、セイフティマージンも必要なくなります。
アンチノックコントロールは、すべてのノッキング条件に応じて点火時期の修正を行い、レギュラーガソリン(最低RON91以上)でも正常な走行を可能にします。
アンチノックコントロールの働き:
M60はシリンダー別アダプティブアンチノックコントロールシステムが装備されています。4個のノックセンサーで、燃焼時のノッキングを検知します。センサー信号はDMEコントロールユニットで評価されます。
ノックセンサーは圧電式固体電送音マイクロフォンです。固体電送音をとらえて電圧信号に変換します。
ノッキングが発生した場合、ある一定数のサイクルに対してイグニッションは遅角方向へ調整し、その後再び徐々にもとの値に近づけていきます。遅角の調整は、各シリンダー毎にそれぞれ調整することができます(シリンダー別)。すなわち、実際にノッキングが発生しているシリンダーのみが影響を受けます。
ノックセンサーが故障した場合、DMEコントロールユニットのディフェクトメモリーに登録されます。故障の場合、点火時期は常時一定の遅角に調整され、エンジンを保護します。
4個のノックセンサーは両方のシリンダーバンクに挟まれた側のシリンダーブロックのウォータージャケット部に8mmのボルトで固定されています。各センサーは隣接する2つのシリンダーをモニターできる位置に取り付けられています。
ボルトロックは必ずロックタイトのみを使用します。平ワッシャー、スプリングワッシャー、歯付きワッシャーは絶対に使用してはいけません。
アンチノックコントロールの自己診断には以下の点検が含まれます:
この点検で故障が確認されると、アンチノックコントロールは停止され、エマージェンシープログラが点火時期制御を引き継ぎ、同時にディフェクトメモリーへ登録します。エマージェンシープログラムは最低RON91以上の燃料で正常な作動を保証します。その場合にはエンジン負荷、回転数およびエンジン水温が影響します。
自己診断ではセンサーのコネクターが誤って交換されているかどうかは検知できません。センサーの取違えはエンジンを損傷します。サービス作業ではセンサーを正しく接続するよう、特に注意しなければなりません(リペアマニュアル参照)。
キャタライザーが最適状態で作動するためには、燃焼における理想的な空燃比(ラムダ=1)が要求されます。そのためラムダコントロールは、ヒーター付きラムダセンサーを2個(各バンクの排気ガス経路にそれぞれ1個=ステレオラムダセンサー)使用して排ガス中の残留酸素量を測定し、それに応じた電圧値をコントロールユニットに送り、必要であれば噴射時間を変更することで、混合気の組成を適切に修正します。ラムダセンサーが機能しない場合には、プログラムされた代替値(0.45V)で、DMEコントロールユニットによる制御が行われます。
ラムダセンサーを作動可能状態にするために、約300℃の温度が必要であるため、リレーを介してラムダセンサーの加熱抵抗に電圧が供給されます。リレーの制御は、DMEコントロールユニットにより行われます。
インテークエアの流れの中で加熱されたホットフィルムセンサーの表面は、インテークエアに対して180o Cという一定の超過温度に調整されています。吸入されたエアは加熱されたフィルム表面を冷却し、それによって抵抗値を変化させます。超過温度を一定に保つために必要とされる加熱電流は、吸入されたエア量の測定値となります。この値からDMEコントロールユニットは噴射時間を算出します。
主な長所:
ホットフィルムエアマスメーターの採用により、エンジン停止後にホットワイアを燃焼させて清掃する必要がなくなりました。一定の超過温度によって保護フィルム自身が清掃されるため、表面に汚れが堆積してもセンサー信号に直接影響することはありません。
フューエルタンクのエア抜きラインには、タンク内で発生した燃料蒸発ガスを集めるチャコールキャニスターが接続されています。チャコールキャニスターのさらに先のラインはエアコレクターと接続されています。これらのラインにはタンクエア抜きバルブが取り付けてあります。
タンクエア抜きバルブが開かれると、エアコレクター内のバキュームにより、チャコールキャニスターを介してフレッシュエアを吸入します。フレッシュエアはフィルターに集められた燃料を吹き流してエンジンへ送り燃焼させます。
補足的に供給されたこの混合気は燃焼に強い影響を与えるため、タンクエア抜きバルブは電気制御式のバルブで構成されています。タンクエア抜きバルブは、無通電状態ではチェックバルブによって閉じられています。チェックバルブは、停止中に燃料がエアコレクター内に溜まることを防ぎます。エアコレクター内のバキューム圧が上昇すると、チェックバルブが開きます。
こうした電気的制御(タイミング制御)は、回転数と負荷に応じて行われます。ラムダコントロールが作動すると、すぐにエア抜きサイクル(ブロー期間)が始まります。1サイクルが完了すると、バルブは約1分間閉じます(静止期間)。
調整はDMEコントロールユニット内で調整値を変更して行われます。このCO調整はDISまたはMoDiCに付属の診断プログラムでのみ実施できます。
インテークマニフォールド内で形成される混合気が排気ガスとなってラムダセンサーに到達するまでしばらくかかります。この時間は、負荷および回転数の上昇に応じて短くなります。従ってラムダコントロールの反応時間も、負荷および回転数に左右されます。ラムダセンサーで検知された混合気の偏差は、学習値(学習した修正値)のメモリーに登録されます。この学習により噴射はあらかじめ規準値付近にセットされ、これにより反応時間は短縮されます。
例えばアイドリング中のDME特性マップの基本噴射値が、理論空燃比を維持するには低すぎる場合、ラムダコントロールは常に噴射時間を増やさなければなりません。このような場合には、基本噴射値を修正した学習値が設定されます。このようにして、ラムダコントロールは精密な調整を行います。
以下の学習はエンジン作動中に実施されます:
フューエルタンクエア抜きバルブが開くと、チャコールキャニスターからの燃焼可能な混合気を加えてエンジンへ送られます。ラムダセンサーで検知された混合気の変化はフューエルタンクエア抜き学習値により完全に補正されます。
アイドリングエアの学習はアイドルコントロールバルブにより行われます。空気量によりアイドル回転数を一定に保ちます。
タンクエア抜きの静止期間中に、スロットルバタフライ位置を基にアイドリングを検知すると、一定の間隔でアイドル混合気の学習が行われます。
部分負荷域においても一定の間隔で混合気学習が行われます。算定された学習値はすべての部分負荷域で考慮されます。
吸気温度センサーはエアコレクターに取り付けられています。「温度」の値を、測定値としてDMEが電気的に評価可能な「抵抗値」へと変換するため、NTCサーミスタ(NTC抵抗)を使用しています。
吸気温度は空気量(エアマス)測定時に自動的に考慮されるため、吸気温度センサーは噴射時間の修正には必要ありません。吸気温度センサー(NTC−1)は始動動作のとき水温センサー(NTC−2)と関連して利用されます。両方のセンサーの抵抗値は噴射時間を形成するための正確なインフォメーションを提供します。これにより特殊な温間始動時のトラブルは避けられます。
始動時に、エアマスメーター内のエアコラムが振動することがあります。このため、エアマスメーターのアウトプット値は、始動時の噴射時間の修正値として使用することはできません。
したがって始動時、自由にプログラミング可能な回転数限界値までは、水温センサーの測定値を利用します。
車速信号(V信号)のインプットは、DMEコントロールユニットの多くの機能のために必要となります。
ASC装備車両の場合、サーボモーター付きプリスロットルバタフライおよびADSコントロールユニット(オートマチックスロットルバタフライコントロール)が取り付けられています。
ASC/MSRコントロール(エンジンブレーキトルクレギュレーター)は、以下の機能によって行われます:
DME M3.3の内部で必要となるASC機能の制御、あるいはエンジン回転数の評価のため、以下のASC−DMEインターフェースが必要となります:
機能 |
DMEコントロールユニット |
ABS/ASCコントロールユニット |
---|---|---|
点火時期調整 |
ピン82 |
ピン77 |
イグニッション停止 |
ピン83 |
ピン81 |
アイドル回転数上昇 |
ピン62 |
ピン18 |
回転数信号 |
ピン20 |
ピン47 |
スロットルバタフライ測定値 |
ピン11 |
ピン20 |
DMEコントロールユニットは、ABS/ASCコントロールユニットから、ホィールのスリップ値に関する情報を受け取ります。ABS/ASCコントロールユニットにより、DMEコントロールユニットが行う制御または制御の組合せが決定されます。インターフェースへの信号インプットの最大時間は2秒以下です。1つまたは複数のインプットが2秒以上続く場合、故障がディフェクトメモリーにメモリーされ、ASC機能が遮断されます。
DMEM3.3用のZA機能は、M30およびM70エンジン用のDME M1.1、M1.2およびM1.7の同様の機能に相当します。
アイドル回転数上昇およびイグニッション停止が同時に作動する場合、スロットルバタフライコントロールと同時に、イグニッション停止およびインジェクション遮断が行われます。イグニッション停止は最大2秒間行われます。
DMEM1.7の機能と類似してASC作動状態では、イグニッションタイミング調整は遅角方向に行われます。
惰行運転のときにアイドルコントロールバルブが開くことによって、DMEのMSR(エンジンブレーキトルクレギュレーター)機能が行われます。信号が到着すると、エンジントルクを低下させ、リアホィールの空転を防止するため、アイドルコントロールバルブがさらに開きます。さらに、DMEはエンジンが停止しないように、フューエルカットオフを中断します。
ASC装備車両が制御領域に入ると、ABS/ASCコントロールユニットはそれに応じた信号をDMEコントロールユニットに送ります(ASC機能を参照)。DMEコントロールユニットの点火時期の遅角、またはイグニッション停止と同時に、ADSコントロールユニットはエンジン回転数を減少させるため、プリスロットルバタフライを閉じます。プリスロットルバタフライの調整がどの程度必要かを決定するため、ADSコントロールユニットは、DMEスロットルバタフライのスロットルバタフライ測定値を受け取ります。場合によってはドライバーの要求(アクセルペダル)とは逆の方向に、必要なだけADSサーボモーターを介してプリスロットルバタフライを調整します。
DWAのインプットによって、車両を盗難から守ります。インプットはハイシグナルの作動に影響を受けます。
盗難防止はある一定の回転数限界値まで作動します。マルチインフォメーションディスプレーMID内またはDWA内に何らかの故障があり、回転数を読み出すことができない場合、車両の移動防止は機能しません。
この回転数限界値以下でハイシグナルが到着すると、盗難防止装置が作動します。この場合、DMEM3.3によりエンジンの始動が妨げられます。この状態で、車は押しがけをしてエンジンをかけることは不可能です。
排ガスの後処理を行うためにエアポンプを使用しています。このベーン式ポンプは、Vベルトによって機械的に駆動されます。エアポンプのキャリアは、A/Cコンプレッサーに固定されています。
吸入はホースおよび配管によって、シリンダーヘッドにある縦方向ポートで行われ、そこからエグゾーストポートに吸引されます。
2個のチェックバルブと1個のシャットオフバルブで、排ガスがエアポンプに逆流することを防止します。空気圧式シャットオフバルブは、ソレノイドバルブによって制御されます。エアポンプは、必要に応じてマグネットクラッチで接続されます。
CANバス(ローカルエリアネットワーク)はシリアル(直列)バスシステムで、ここに接続されているステーション(ユニット)はすべて同じ権利を持っています。つまり各コントロールユニットは送信/受信ができ、接続されたコントロールユニットは、お互いにケーブルを介して「会話」したり、インフォメーションを交換することができるわけです。
ネットワークの構造は直線的であるため、バスシステムのどこか1つのステーションが故障しても、他のすべてのステーションは引き続き使用することが可能です。2本のデータケーブル(CAN_LおよびCAN_H)で構成され、シールド(CAN_S)によって雑音から保護されています。
現在このシステムには、AGSおよびDMEのコントロールユニットが相互接続されています。さらにこの他のコントロールユニット間の接続が行われる予定です。
接続されているユニットはすべて同じCANステップで使用されなければなりません。CANステップの点検は診断インターフェースで実行できます。CANバスに接続されているそれぞれのコントロールユニットの識別画面の中にCANステップ(バスインデックス)が表示されます。
以下のインフォメーションは、アダプティブエレクトロニックトランスミッションコントロールAGSからCANを介して交換されます: