機能説明には、以下の項が含まれます:
はじめに
M62 エンジンシリーズは M60 エンジンに代わる後継機種です。 この M62 エンジンは、1992 年より導入されている BMW V 型 8 気筒エンジンシリーズを改良したものです。 M62 エンジンは、1996 年 1 月以降 E31、E38 、E39 の各シリーズに順次搭載されます。
新型 M62 エンジンの主な特徴は M60 エンジンと変わりありません。
M62 エンジンには、次の 2 種類のエンジンタイプが用意されます。 すなわち、排気量 3.5 リッターと 4.4 リッターのタイプです。
これらは、以下のシリーズに導入されます:
エンジン/モデルシリーズ |
M62B35 |
M62B44 |
---|---|---|
E31 |
- |
840i |
E38 |
735i |
740i |
E39 |
535i |
540i |
M62 エンジン |
|
技術的な改良を行った目的は、新しい法規制への適合化を達成し、快適性および質をさらに向上させることでした。
その際、以下の項目にも重点が置かれました:
これらの開発目標は、基本的には排気量の拡大、クランクドライブの変更、カムシャフトドライブの変更、各種エンジンまわりのコンポーネントの改良、新型デジタルモーターエレクトロニクス DME M5.2 の採用によって達成することができました。
クランクケースには製造技術上の理由(クランクケースメーカーの製造能力)から、2 種類のアルミ合金を使用しています。
燃料品質の悪い(燃料に含まれる硫黄比率が高い)市場向けエンジンのクランクケースは、M73 と同様にアルジル(Alusil)製です。 このエンジンの搭載される国別仕様は、下記の通り:
このエンジンのクランクケースは、M73 エンジンと同様にアルミ合金の一種(Alusil)を使用した鍛造品(金型)です。 シリンダー内壁はコーティングされていません。 シリンダー内壁の表面品質は、製造時にエッチング処理を行い確保しています。
その他の市場向けの M62 エンジンのクランクケースは、M60 エンジンで周知のアルミ合金(AlSi9Cu3)を使用しています。 このクランクケースのシリンダー内壁にはニッケル分散メッキ(Nikasil)が施してあります。
この 2 つのタイプのクランクケース(アルミ合金)を外見で識別する方法は部品番号です。 クランクケースの 2 種の材料に応じて、ピストン表面のコーティングは異なります(ピストンの章を参照)。
製造方法に関係なく、クランクケースの構造は同じです。
これまでの M52 および M73 と同様、M62 でもフックタイプノズル式ピストンクーラーを採用しています。 このフックタイプノズルはベアリングシートに直接ねじ込まれています。 このフックタイプノズルの採用により、ピストンクラウンに噴射されるオイルスプレーは、ピストンストローク全体に渡って途切れなく行われます。
フックタイプノズルの脱着方法は、これまでの M52/M73 とは異なります。 リペアマニュアルにしたがって行うこと!
ピストンを組込んだ M62 のシリンダブロック |
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両排気量仕様ともストロークが拡大されたため、新しいクランクシャフトが使用されています。 M60 と同様に、クランクシャフトベアリングは 5 個所に取り付けられています。 クランクピンは 90 o ずつずらされています。 カウンターウェイトを 6 個所に設けているため、エンジン回転を滑らかに保ちます。
M62 の両排気量とも、クランクシャフトは鍛造スチール製です。 中心軸は中空シャフトになっており、軽量化に役立っています。
クランクケースの使用素材の違い(国別仕様による)に応じて、ピストンとピストンリングの表面皮膜も異なります。 Alusil 製クランクケース用ピストンには鉄皮膜を施してあります。 このピストンは、部品番号で識別できます。
修理時にピストンを交換する必要がある場合、とりわけ外国市場向けの車両では、クランクケースの部品番号に対応する所定のピストン/ピストンリングを使用するように注意してください。
ピストンの構造は、表面皮膜のの種類に関係なく、どのピストンも同じです(スリッパー型ピストン)。
ピストンはすべて RON 95 の燃料で動作する設計となっています。 圧縮比は、両排気量とも 10.0 : 1 です。
コンロッドは M60 エンジンのものと同じです。
M60 ではじめて採用された焼結合金製コンロッドをM62 にも採用しています。 このコンロッドは、重量(可動部質量)であるばかりでなく、エンジンの全作動域にわたり高い強度を確保しています。
焼結鍛造コンロッドは、製造過程でコンロッドとビッグエンドのベアリングキャップとなる部分を切断して分割します。 そのため、組み付ける際、従来のようなフィットスリーブによる心出しは不要です。 心出しは、切断面とコンロッドボルトのガイドによって行います。 焼結鍛造工程での仕上げ精度が高く、重量の均一性が保証されるため、判別マーク(ペイントマークまたは重量区分コード)を付ける必要はありません。
M62 エンジンでは、クランクシャフトとコンロッドのボルト連結部用に新しいエクスパンションボルトを使用しています。
オートマチックトランスミッションと組み合せられるフライホイールは、スチール製の 1 ピース構造になっています。 マニュアルトランスミッション車には、ビスカス式(流体減衰式)ダブルマスフライホイール(ZMS)を使用しています。
どちらの仕様とも、M73 エンジンと同じくクランクシャフトセンサー用インクレメンタルホイールの役割も果たしています。 トランスミッションベルハウジングには誘導型パルスセンサーが取り付けられています。 インクレメンタルホイールをフライホイールに取り付けることにより、DME コントロールユニットはミスファイアーを検知することがきるようになりました。
インクレメンタルホイール付きフライホイール |
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従来のエンジンのインクレメンタルホイールは、加硫処理されたラバーエレメントを介して、バイブレーションダンパーに取り付けられていました。 したがって、エンジンの回転むらを検知できませんでした。
新しいフライホイールに取り付けられたインクレメンタルホイールは、緩衝材なしでクランクシャフトに直接固定されています。
そのため、ミスファイアなどによるエンジンの回転むらは、ダイレクトにインクレメンタルホイールに伝わります。 したがって、誘導型パルスセンサーでは、エンジン回転数およびレファレンスマークだけでなく、イグニッションおよびインジェクションシステムの不具合が原因で生じるミスファイアも検知することができます。 ミスファイアの検知は OBD 2(米国仕様)で義務付けられています。
ミスファイア検知機能に関する詳しい説明は DME の章に記載されています。
オイルパンは E38 M60 と同様の 2 分割式です。 上部はアルミダイカスト鋳物です。 オイルパン下部は二重鋼板製です。
オイル充填量は M60 と同じです。
M62 エンジンのオイル充填量は、両排気量とも次の通り:
オイルディップスティックの「MIN」と「MAX」との間のオイル量は 1.5 l です。
M62 のオイルポンプハウジングとオイルポンプカバーはアルミダイカスト製です(M60 はマグネシウム製)。オイルポンプの構造と駆動方式は M60 と同じです。
E38 M60 と M73エンジンと同様に、M62 にもサーマルオイルレベルセンサーを採用しています。
このオイルレベルセンサーは、パルス幅変調信号をチェックコントロールモジュールに送ります(E31: CCM;E38/E39: LCM)
この信号のデューティレシオが、エンジンオイルの充填レベルを示す尺度になります。 CCM および LCM コントロールユニットに登録されている限界値を下回ると、チェックコントロールメッセージ「CHECK ENGINE OIL LEVEL」が表示され、ドライバーに注意を促します。
この技術に関する詳細は、トレーナーズガイド「E38 メーターパネルエレクトロニクス IKE / I バス接続」に記載されています。
オイルフィルターは M62 のものと同じですが、フィルターハウジングはボディ側に取り付けてあります。
クランクケースのベンチレーションは、M60 と同様にプレッシャーコントロールシステムで行われます。 クランクケースベンチレーションは、従来通り M60 で採用したものと同じです。
エンジン作動中に発生するブローバイガスはクランクケース内に集まります。
負圧状態にあるインテークマニフォールドとクランクケースは、インテークマニフォールドのカバープレート内に組み込まれたプレッシャーコントロールバルブを介して結合されています。 そのためバルブによって発生する負圧により、クランクケース内のブローバイガスはサイクロンセパレーターに吸引されます。
ブローバイガス中に含まれるオイル蒸発ガスは、ここで冷やされてサイクロンセパレーターの壁に凝結し、リターンパイプを通ってオイルパンに戻されます。 残ったガス状の成分は、インテークマニフォールド内に吸収され、スロットルバタフライハウジングのパイプをミクスチャーチャンバーへ導かれます。
インテークマニフォールドのプレッシャーコントロールバルブ |
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M62 の 4 バルブシリンダーヘッドの構造は、M60 とほぼ同じですが、部品が異なります。 外観で識別できるように、未加工部分に M60 または M62 表示および排気量(例 B35)を鋳込んであります。
M62 のシリンダーヘッド |
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シリンダーヘッドガスケット
シリンダーヘッドガスケットにはアスベストを含まない素材を使用しています。 M60 のシリンダーヘッドガスケットとは異なり、タイミングケースカバー部分までは覆っていません。 この部分には、新たに成形ラバーガスケットを使用しています(タイミングケースカバーの項を参照)。 そのため、シリンダーヘッドガスケットの識別コード(3.5l / 4.4l)も裏側に移してあります。
シリンダーヘッドカバー
シリンダーヘッドカバーはマグネシウム製です。
マグネシウム製シリンダーヘッドカバーは、表面を損傷すると腐食するおそれがあるため、表面を損傷しないようにしてください。
各シリンダーヘッドにはカムシャフトが 2 本ずつあります。 このカムシャフトは M60 のものと同様に、チル鋳物製です。
カムシャフトの固定用ツールは、 M60 の固定用ツールと角度が合わせられました。 したがって、M60 で使用していたカムシャフト固定用ツールは M62 にも使用することができます。
シリンダーヘッドとカムシャフトおよびオイルライン |
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カムシャフト識別
カムシャフトの識別コードは M60 と同様、数字/文字を組み合せて刻印してあります(E1-4、A1-4、E5-8、A5-5)。
バルブメカニズムは、可動部の質量をできるだけ減らすことを重視して設計されました。 油圧タペット、バルブスプリング、アッパースプリングリテーナーの各質量は大幅に削減されました。 これによりフリクショントルクと騒音が少なくなりました。
バルブ
各バルブの寸法と重量は M60 と同じです(M60 と共通部品)。
HVA タペット
HVA タペットは、直径が小さくなりました(M60: 直径 35mm / M62: 直径 33mm)。 これにより重量も 32g 減って 48g になりました(M60: 80g)(M52 と共通部品)。 これは INA 製タペットで、炭窒化処理されたカム摺動面を持ち、セルフベンチレーション式です。
バルブスプリング
さらに円錐形シングルバルブスプリングの採用により、可動部の質量は一層軽減されています。
スプリングリテーナー
アッパースプリングリテーナーも、重量を最適化しました(M44 および M52 と共通部品)。 ロアースプリングリテーナーは M52 と共通部品です。
こうした変更により、バルブメカニズム全体の重量は大幅に軽減されました(下記の表を参照)。
|
M60B40 |
M62B44 |
---|---|---|
インテークバルブ(g) |
49 |
49 |
エグゾーストバルブ(g) |
48 |
48 |
HVA タペット(g) |
80 |
48 |
バルブスプリング(g) |
36 |
12 |
アッパースプリングリテーナー(g) |
15 |
8 |
バルブコッター(g) |
1 |
1 |
インテークバルブ 1 個あたりの総質量(g) |
181 |
118 |
エグゾーストバルブ 1 個あたりの総質量(g) |
180 |
117 |
プライマリードライブ
ノイズ、重量、摩擦の改良に関してはすでに述べましたが、さらに騒音特性を改善するために、プライマリードライブは、シングルローラーチェーン(M60: ダブルローラーチェーン)1 本で行われ、クランクシャフトからの動力はインテーク側カムシャフトへと伝達されます。 プライマリースプロケットはラバーコーティングされているため、チェーンとのかみ合いによる騒音を抑えています。
カムシャフトセンサーホイール
シリンダー 1-4 側のインテークカムシャフトのスプロケットには、DME が第 1 シリンダーを識別するために、4 つのセグメントをもつセンサーホイールが取り付けられています。 M60(誘導型センサー)とは異なり、M62 エンジンのカムシャフトセンサーはホールセンサーです。
カムシャフトセンサー ホィールの構造が変わったため、カムシャフトドライブ取付け時のセンサーホィールの位置決めも変更されました。 カムシャフトセンサーホィールには、マーク(切り欠き)が付いています。 取り付けの際は、このマークがシリンダー軸方向において上向きになるようにセットしてください(図 6 参照)。 リペアマニュアルにしたがって行うこと!
M62 カムシャフトセンサーホイール |
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プライマリーチェーン用ガイドレール
V バンクに取り付けられていたガイドホィールに代えて、M62 ではプラスチックレールをクリップ止めしたアルミ製 V 字型ガイドレールを採用しました。 チェーンの張力は、圧力リミッター付きの油圧式チェーンテンショナーによって与えられています。
プライマリードライブ用 V 字型ガイドレールを持つ M62 エンジン |
|
ガイドホィールに代えて V 字型ガイドレールを採用したため、ライマリードライブを取り付ける際のテンションレールのプリテンショニングのトルク値が更されたことに注意してください (リペアマニュアルを参照)。
セカンダリードライブ
セカンダリードライブも、シングルローラーチェーンで駆動されています。 これはカムシャフトからエグゾースト側カムシャフトへと伝達されます。
各シリンダーヘッドには、油圧式チェーンテンショナーが 1 つずつ組み込まれています。
シングルローラーチェーン付き M62 シリンダーヘッド |
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タイミングケースカバーは、M60 と同様にシリンダーヘッドとクランクケース中央部にボルトで固定されています。
新しいシーリング:
左右のアッパータイミングケースカバーとシリンダーヘッド、およびアッパー/ロワータイミングケースカバーのシーリングは、成形ラバーガスケットを使用しています。 成形ラバーガスケットの採用により寸法公差を吸収し、ロワー/アッパータイミングケースカバーを音響的に分離できます。
ガスケットの変更に伴い、アッパータイミングケースカバーの取付け方法も変更されたので、最適なシール効果が得られるように留意してください。 取り付ける際は、リペアマニュアルの注意事項を参照すること!
クランクケースとロワータイミングケースカバー間のシーリングは、フラットガスケットです。
M62 のスロットルバタフライハウジングは、新たに設計し直されました。 アイドルコントロールバルブ(2 コイルレギュレーター ZWD 2)の開口部付近に、ミクスチャーチャンバーを設けました。
このミクスチャーチャンバーは、インテークマニフォールドとスロットルバタフライ間にシートメタルを取り付け、正確に調整された開口断面で形成されています。
こうして作り出されたミクスチャーチャンバー内には、アイドルコントロールバルブのエアおよびチャコールキャニスターからのパージ エアが流れ込み、また均等に分配されたブローバイガスも流れ込みます。このブローバイガスは、クランクケースベンチレーション用プレッシャーコントロールバルブによってスロットルバタフライハウジングに送り込まれます。 ハウジング内では、ブローバイガスおよびチャコールキャニスターからのパージエアと、吸入されたフレッシュエアとをミックスします。 これにより、各シリンダーに対し、均等にブローバイガスが送り込まれ、安定したアイドル特性を得ることができます。
M62 のインテークマニホールドは、プラスチック製の一体型です。 M60B40 のものと同じです。
クランクケースベンチレーション用のプレッシャーコントロールバルブは、インテークマニホールドに直接取り付けてあります。 プレッシャー コントロール バルブからはディストリビューションパイプが出ていて、インテークマニホールドを通って、スロットルバタフライのミクスチャーチャンバーに接続しています。
ブレーキブースターのマスターバッグ用の接続部は、インテークマニホールドのカバーにあります。
大部分の BMW エンジンと同様、M62 にもダイレクトイグニッションシステムを採用しています。
イグニッションコイル
M62 エンジンには、新型のイグニッションコイルを使用しています。 このイグニッションコイルの構造は、M52 エンジンのものと同じです。 これまでのイグニッション コイルとは機械的構造が異なり、小型軽量化されています。
M60 / M62 のイグニッションコイルの比較 |
|
M62 エンジン搭載車両にはすべて、空冷式コンパクトオルタネーター(140A)を採用しています。
E31 用(トランクルームにバッテリー 2 個搭載)は 消費電力が多く、そのため静電流も大きい(自動車電話やパーキング ヒーターなどのオプションによる)ため、これまでと同様に水冷式 220 A のオルタネーターを装備しています。
オプションのエアコンディショナーを装備した E39 は、3 ステージ電動ファンを採用しています。
E31 および E38 モデルでは、エアコンディショナーが標準装備であるため、この電動ファンも標準装備となっています。
騒音を減らすために、これまでの 2 ステージ式は、3 ステージになりました。 各ステージのスイッチング基準も設定し直されました。
スイッチング基準
スイッチオン |
ステージ 1 |
- コンプレッサークラッチが動作中、かつ外気温が 10 o C 以上 - 水温が 91 o C 以上 |
スイッチオン |
ステージ 2 |
- 中圧スイッチが閉(21 bar 以上) |
スイッチオン |
ステージ 3 |
- 水温が 104 o C 以上(ダブル温度スイッチを介して作動) |
スイッチオフ |
ステージ 4 |
- コンプレッサークラッチが非作動- 外気温が 8 o C 以下 - 水温が 91 o C 以下 |
M60 と同様に両バリエーションとも、スターターにはボッシュ製の出力 1.7 kW の中間軸式スターター(12 V)を使用しています。
E38 と E39 シリーズで新しくなったのは、バッテリー充電ターミナル用のケーブルとケーブルの取回しです。 B+ ケーブルは、エンジン下を通ってオルタネーターとバッテリー充電ターミナルに接続しています。
バッテリー充電ターミナルは、シリンダーバンク 5 〜 8 のタイミングケースカバーの上にあります。
E31 では、バッテリー充電ターミナルは、これまでと同様にストラットドーム右側の上にあります。
エグゾーストシステムは、マニホールドからエンドパイプまではすべてステンレス鋼製で、マニホールドフランジ以降は 1 体式です。
エグゾーストマニホールド
これまでの M60 と同様に M62 でも、二重鋼管製エグゾーストマニホールドを使用しています。
キャタライザー
フロントパイプも、断熱二重パイプです。
キャタライザーは複流式で、 1 つの排ガス通路にトリメタルコーティング(プラチナ、パラジウム、ロジウム)されたセラミックモノリスが 2 つ内蔵されています。 排ガスの背圧をできる限り小さくするため、各モノリスの断面は M73 と同じになっています。
冷却水回路の基本的な構造は、M60 エンジンと同じです。
ウォーターポンプ
ウォーターポンプの構造は、M60 エンジンと同じです。 ポンプハウジングはアルミダイカスト製で、タイミングケースカバー内部にボルト止めされています。 M60 とは異なり、ウォーターポンプハウジング内にクーラント用のダブル水温センサーが取り付けられています。 このダブル水温センサーは、エンジン側冷却水出口に取り付けられています。
ダブル水温センサー付きウォーターポンプのクローズアップ |
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ラジエター
M62 のラジエターの構造は、M60 エンジンと同じです。
国別仕様によっては、ラジエターをもう 1 つ追加装備しているものもあります。
サーモスタットは、ウォーターポンプハウジングに内蔵されています。
M62 エンジンを搭載した E31 の場合は、M60 と同様に、エア抜きバルブを内蔵した標準的なサーモスタットを取り付けてあります。 このサーモスタットは、85 o C で開きます。
M62 エンジンを搭載した E38 と E39 には、新型の特性マップ制御式サーモスタットを採用しています。
標準的なサーモスタットの機能
標準的なサーモスタットによるエンジン冷却制御は、冷却水の温度のみに依存しています。 エンジン水温の制御は、下記の 3 つの動作に分けることができます:
この作動範囲(サーモスタットの制御範囲)の場合、エンジン水温は、特性マップサーモスタットによって効果的に制御されます。
この制御により、部分負荷域でのエンジン水温を上げることができます。 エンジンの部分負荷範囲すなわちサーモスタット制御範囲でエンジン水温を上げると、燃費が良くなり、有害物質の排出が低減されます
フルロード作動中に作動温度が高くなると不利な現象が発生します(ノッキングによるイグニッションタイミングリタード)。 したがって、フルロード時は特性マップサーモスタットにより水温が低温度に制御されます。
|
特性マップ冷却の制御特性 |
---|---|
1 |
110 o C サーモスタット特性曲線 |
2 |
特性マップサーモスタットの特性曲線 |
3 |
85 o C サーモスタットの特性曲線 |
4 |
部分負荷 |
5 |
全負荷 |
6 |
部分負荷 |
BMW は、エンジン水温を適切に制御するために、量産エンジンで初めて特性マップ制御式サーモスタットを採用した自動車メーカーです。 このサーモスタットの働きにより、部分負荷域におけるエンジン水温を最適な状態に高めることができます。 エンジン水温が高くなれば、エンジンの部分負荷状態での燃費が向上します。 特性マップサーモスタットの制御は、DME M5.2 による特性マップに応じて行われます。
この特性マップは、下記の要因で決まります:
特性マップ サーモスタットの構造
特性マップサーモスタットは一体型サーモスタットです。つまり、サーモスタットとサーモスタットカバーが 1 ユニットになったものです。
特性マップ サーモスタットの機械的構造は、標準的なサーモスタットと同じです。 ただし、膨張剤(ワックスエレメント)には、ヒーターエレメントが内蔵されています。
特性マップサーモスタット断面図 |
|
特性マップサーモスタットのサーモスタットカバーは、アルミダイカスト製です。 サーモスタットカバーには、特性マップサーモスタットの膨張剤部分に組み込まれたヒーターエレメント用のコネクターがあります。
ヒーターエレメント用コネクター付き特性マップサーモスタット |
|
特性マップサーモスタットの機能
性マップサーモスタットは、サーモスタットまわりの冷却水温度が 103 o C のとき、内蔵ヒーターの制御動作なしに開くように設定されています(エンジンへの入口部)。 クーラントはエンジン内部で加熱されるので、この作動状態ではエンジンからの出口部分(メーターパネル および DME 用のエンジン水温センサー取付け位置)における水温は約 110 o C になります。 エンジン水温がこの温度に達すると、特性マップサーモスタットは自動的に開き始めます。
DME コントロールユニットによる制御動作が行われた場合には、サーモスタットに組み込まれたヒーターエレメントに電流(12 V)が流れ、温度に応じてサーモスタットの開度を決める膨張剤が加熱されます。 この膨張剤が加熱されると、非加熱の場合よりも低いエンジン水温でもサーモスタットが開きます(サーモスタット制御範囲: 約 80 o C - 103 o C)。
1 |
サーモスタットの開度 |
2 |
エンジン水温 |
3 |
ヒーターエレメント制御電圧:12 V |
4 |
ヒーターエレメント制御電圧:0 V |
エンジン出口部分の冷却水温度が 113 o C を超えると、他のパラメーターには関係なく、DME により特性マップサーモスタットのヒーターがオンになります。
診断
特性マップサーモスタットのケーブルコネクターおよび機能は、DME コントロールユニットの診断部でモニターしています。 故障が発生すると、DME コントロールユニットのディフェクトメモリーに故障が登録されます。
メーターパネルの水温計
メーターパネルの水温計の表示特性は、特性マップサーモスタットの採用による比較的高いエンジン水温レベルに合わせてあります。
メーターパネルの水温計の指針は、エンジン水温範囲が
75 o C - 113 o C
で中央になります。
ボッシュ製デジタル モーターエレクトロニクス DME M5.2 は、すでに M73 に採用されていますが、M62 エンジンでも採用することになりました。 DME M5.2 は、M60 エンジンの DME M3.3 に取って代わるものです。
この新しい DME は、冒頭に述べた開発目標、特にアメリカの新しい法規制(OBD 2 など)を考慮して開発されました。 特にカリフォルニア州では、有害排出物の削減に関して非常に厳しく規制しています。
この CARB (California Air Ressource Board:カリフォルニア州大気汚染規定)対策は DME 5.2 によって達成されています。
米国市場向けの車両を製造するすべての自動車メーカーに義務付けられたオンボードダイアグノシス (OBD)インターフェースが装備されています。 このインターフェースにより、国営の道路交通監視システムは、診断ケーブルを介していつでも DME のディフェクトメモリーから OBD 関係の情報を読み取ることができます。 ディフェクトメモリーの限られた範囲内の内容に対するアクセスは、DME コントロールユニット内部のコーディングによって行われます。
DME M5.2 の主な特長:
カリフォルニア州および米国の法規では、排ガス規制値が守らているかどうかをチェックするために、走行中に排ガス関係のコンポーネントすべてをモニターするよう定めています。 そのため、主にミスファイア検知機能を備えた高性能の自己診断機構が必要となりました。 米国仕様車では、排ガス関係の不具合が発生すると、DME によりメーターパネルの「Check Engine」警告灯が点灯します。 この警告灯はドライバーに対し、エンジンコントロールに有害排出物に影響を与えるような異常が発生したことを知らせ、ただちに修理工場で不具合を除去するよう促します。
OBD 2 の主な診断機能:
OBD 2 のもう 1 つのコンポーネントは、すべての自動車メーカーに義務付けられた診断インターフェースです。 このインターフェースにより、米国の道路交通監視関係当局は、コントロールユニット内に記録された排ガス関係の異常を「Scan-Tools:スキャン ツール」で読み取ることができます。
他の機能
上記の機能を除いて、OBD 2 関係のモニター機能はすべて、米国市場向けでない DME 5.2 コントロールユニットも持っています。 関係当局がディフェクトメモリーにアクセスできるようにするために義務付けられている OBD 2 インターフェースは、米国仕様車両にのみ取り付けられています。
エンジン回転数は、インクレメンタルホィールの回転数を誘導型パルスセンサーによって測定しています。 M62(M73 と同様に)ではエンジン回転数の他、ミスファイアも検知されます。
ミスファイアを検知するため、パルスホィールはイグニッションインターバル(8 気筒エンジンではクランクシャフト 1 回転に付きイグニッション 4 回)に応じた 4 つのセグメントに分かれています。
コントロールユニットでは、各インクレメンタルホィールのセグメントの周期(T)を測定します。 各シリンダーの燃焼状態が正常であれば、各セグメントの周期は一定になります(T1 = T2 = T3 = T4)。
シリンダーのどれか 1 つに異常(ミスファイア)が発生すると、このシリンダーの周期は 1000 分の数ミリ秒だけ長くなります(図 2: T3 > T1、T2、T4 を参照)。 このセグメント時間は、コントロールユニットで統計的に評価されます。
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ミスファイア検知の原理 |
---|---|
1 |
エンジン回転数 |
2 |
セグメント T3 でミスファイア発生 |
回転の不安定成分の最大許容値すなわちセグメント周期の偏差は、回転数、負荷およびエンジン温度の関数として各特性マップのポイントごとに記録されます。
上記の許容値を超えると、異常が検知されたシリンダーはディフェクトメモリーに記録されます。この場合、米国仕様車では、「Check Engine」警告灯が点灯します。
キャタライザーの過熱を防ぐため、所定のミス ファイア頻度に応じて、当該シリンダーのインジェクションをシャットオフすることもできます。
学習
製造時のインクレメンタルホィールの寸法公差のために、ミスファイア検知が誤作動するおそれがあります。 そのため、DME は下記のようにして自動的に適応を行います。
製造に伴うインクレメンタルホィールの寸法公差は、イグニッション/インジェクションとも行われない惰走状態のときに学習します。惰走状態のエンジンは、燃焼による回転のアンバランスがないからです。
サービスのためのヒント:
フライホィール、パルスセンサー、DME コントロールユニットのいずれかを交換した場合は、その後のテスト走行時に、エンジン惰走状態を比較的長く(約 10 秒)行い、DME コントロールユニットがフライホィールに適応できるようにしてください。
下記のコントロールユニット間のデジタルデータ伝送は、CAN バス経由で行われます。
両排気量とも、(M60 と同様に)ボッシュ製およびルーカス製のテーパードスプレー型インジェクターを採用しています。
M60 と同様 M62 でも、ホットフィルムエアマスメーターを使用しています。
アイドルコントロールは、M60 と同様、M62 でもダブルコイル式アイドルコントローラー(ZWD 5)によって行われます。 アイドル時に ZWD 5 に吸入されたエアは、スロットルバタフライのミクスチャーチャンバーに流入します。
両方のキャタライザーの前には、ラムダセンサーが 1 つずつ付いています。 米国市場向け M62 モデルには、OBD 2 の規定に適合させるために、各キャタライザーの後にさらに ラムダセンサー(モニターセンサー)が 1 つずつ付いています。 これらの ラムダ センサーの構造は、M73 エンジンのものと同じです(型式番号: ボッシュ LSH 25)。
M62 エンジンもアンチノックコントロールを装備しています。 アンチノックコントロールは、エンジンノッキングを防ぎます。 また、ノッキングが発生するおそれがある場合には、当該シリンダーのイグニッションタイミングを必要なだけ遅らせます。
4 個のノック センサーは、両方のシリンダーバンク間のエンジンブロックウォータージャケットに取り付けてあります。 各ノックセンサーは、 1 つのセンサーが隣接する 2 つのシリンダーをモニターするように配置してあります。 ノックセンサーの構造と機能は、M60 と同じです。
M62 には、ダブル水温センサーを使用しています(M60 と同じ)。 このセンサーが測定した冷却水温度は、エンジンコントロールシステムならびにメーターパネルの水温計の両方で利用されます。 そのため、このセンサーには互いに電気的に独立しており、かつ抵抗特性曲線が異なる 2 つの NTC 抵抗が入っています。
ダブル水温センサーは、エンジンフロント側のウォーターポンプハウジング内に取り付けてあります。
オートマチックスタート機能は、始動時におけるドライバーの操作を軽減することに役立っています。 イグニッションキーを軽く「Start」位置(Kl.50)に回すだけで、エンジンを始動することができます。 Kl.50 シグナルが DME コントロールユニットに送られると、エンジンが始動するまでスターターモーターが作動します。. M73 の導入以降、E38 にはすべて、この機能が装備されました。
今後は、オプションのオートマチックトランスミッションを搭載した E38 および E39 にもすべて、オートマチックスタート機能が装備されます。
機能
オートマチックスタート機能の採用により、スターターリレーが Kl.50 で直接作動することはなくなりました。 Kl.50 の機能は、入力信号を DME 5.2 に送ることだけです。
始動信号(Kl.50)が DME 5.2 コントロールユニットに送られ、かつ EWS コントロールユニットが正しい交換コードを認識すると、DME は「オートマチックスタート」アウトプットを送りスターターリレーを制御します。 作動の条件は、セレクターレバーが「P」または「N」位置にあることです。
スターターモーターは、クランクシャフトセンサーで「エンジン始動」を検知するまで、スターターリレーによって動作し続けます。
始動操作時に、エンジン回転数が短時間でも下記の値を超えると、
「エンジン始動」が検知されます。
「エンジン始動」信号が検知されると、DME コントロールユニットがスターターリレーをオフにします。 エンジンが始動しない場合、オートマチック スタート動作は、DME が送り出すグラウンド信号によって 20 秒後に中断されます。
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オートマチックスタート機能図 |
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1 |
クランクシャフトセンサー |
2 |
スターターリレー |
3 |
AT トランスミッションスイッチ(L2) |
M62 エンジン搭載車は、すべて ASC+T を標準装備しています。 ASC 機能を働かせるため、M62 エンジンにもプリスロットルバタフライが装備されて(M60 と同じ)、これはスロットルケーブルを介して ADS 2 ステップモーターによって必要に応じて調整されます。
ADS 2 モーターの制御は、ABS/ASC コントロールユニットが行います。 イグニッションタイミング調整やイグニッションカットオフやインジェクションシャットオフなど、その他の ASC 動作は、DME コントロールユニットが行います。
M62 エンジンでも、エンジントルクコントロール(MSR)を機能させるために、アイドルコントロールバルブ(ZWD 5)を装備しています。 アイドルコントロールバルブは、エンジントルクコントロール(MSR)が作動すると開くようになっています。 そのため、アイドルコントロールバルブには、DME からパルス幅変調信号が送られます。
DME コントロールユニットで ASC 機能を制御するのに必要な情報は、CAN バス経由で伝送されます。