BMW は 96 年 9 月、自動車分野で活用されている最新の走行力学に基づいたコントロールシステム DSC3 を導入しました。
このコントロールシステムにより、スキッド走行等の不安定な走行をこれまでより効果的に回避することができます。
この要求に応えるためには、前後方向とともに左右方向の走行状態を正確に検知しなければなりません。 そこで 4 個の ABS センサーとステアリングアングルセンサーの他に以下のセンサーが必要になります:
旋回度センサーは、ステアリングアングルセンサーによって算出された規定進路からのわずかな偏差を信号で伝えます。
左右方向加速度センサーは、横滑りはしていないものの進路から外れている車両の左右方向の偏差を検出します。
プレッシャーセンサーは、ドライバーの操作によって生み出されるブレーキプリプレッシャーを測定します。
これらの情報と 4 つのホィール回転数、車速、種々のエンジンデータおよびトランスミッションデータをもとに、DSC3 コントロールユニットはドライバーの希望(ステアリングアングル)に合わない危険な走行状態を検知するとともに、ここから逆に路面状況を推定します。
DSC3 コントロールユニットはこれらのデータから、車両のオーバーステア傾向またはアンダーステア傾向、ブレーキを作動させる地点、作動時間、およびその強さを数ミリ秒以内に計算します。
DSC3 コントロールユニットは 4 本の配線を介して電圧を供給されます:
ピン No. |
信号 |
---|---|
1 |
12 V 電源(ターミナル 87) |
51 |
12 V 電源(ターミナル 30) |
28、29 |
グラウンド(ターミナル 31) |
注意事項
ピン No.1 へのプラス電源は、「イグニッションをオン」にすると DME メインリレーを介して直ちにオンになりますが、「イグニッションオフ」後は約 5 秒経過してからオフになります(DME コントロールユニットによる遅延スイッチオフ)。
DSC3 コントロールユニットは CAN バスを介して DME、EML、および AGS のコントロールユニットと結ばれています。 また、このバスにはステアリングアングルセンサーも接続されています。
これらのコントロールユニットは CAN バスを介して常時、以下の各種データをテレグラムの形で交換しています:
AGS コントロールユニットはドライビングトルクの演算用として、実際にシフトされているギアの情報(ギアレシオ)を DSC3 コントロールユニットへ伝送します。
これを受けて DSC3 は低い摩擦係数を検知してダウンシフトを妨げ、煩わしい頻繁なシフトを回避します。
低い摩擦力で発進する場合には、DSC3 コントロールユニットは CAN バスを介しトランスミッションコントロールに対して即座に 2 速にシフトするよう要請します。
DSC3 コントロールユニットには自己診断機能が備わっています。 発生した故障は不揮発性メモリーに登録され、トラブルシューティング時に読み出すことができます。
診断には以下の機能があります:
重要!
DSC3 コントロールユニットは不揮発性のディフェクトメモリーを備えています。 保証の場合は、テストコードをプリントアウトし、ディフェクトメモリーは消去しないでください!
DSC3 は 2 個の警告灯を使用します。 使用される警告灯は
メーターパネルのこれら 2 個の警告灯で、DSC3 のシステムの状態および故障がドライバーに示されます。
イグニッション(ターミナル 15)をオンにすると、両方の警告灯が作動し、各機能を点検します。 コントロールユニットの自己診断で故障が検知されなければ、両警告灯は約 2 秒後に消灯します。
ABS が作動可能状態になると警告灯は消灯します。 コントロールユニットによって ABS システムに故障が検知されると、ABS は作動停止になり、ABS 警告灯が点灯してシステムの故障を知らせます。
警告灯ランプの制御は以下の点が従来の ABS システムと異なっています:
ABS 警告灯はターミナル 15 を介して 12 V に接続されています。 ABS が作動可能状態になると、コントロールユニットはピン 32 にハイレベルをもってきます。 この状態はメーターパネルの電子回路により検知され、警告灯はグラウンド接続されません。
ABS システムを作動解除する故障がシステム内にあると、コントロールユニットはレベルをローへ移します。
この状態になると、メーターパネルで電子回路グラウンドが警告灯へ切り換り、同時にランプが点灯します。
コントロールユニットのコネクターが接続されていないと、自動的に ABS 故障と同様の状態になります。
この新しい制御方式の特徴は、コネクターのスプリングコンタクト、またはバルブリレーを介したブリッジ回路が廃止されたことです。
DSC3 が作動可能状態になるとランプは消灯し、DSC または ASC コントロール中は点滅します。
DSC3 システムに故障が検知された場合、あるいはシステムが DSC パッシブボタンを介して一時的にオフにされた場合、ランプは常時点灯します。
マルチファンクションランプはターミナル 15 を介して 12 V を供給されますが、作動に応じてコントロールユニットにより一時的に 0 V の供給になるか、またはグラウンドに常時接続されます。
コントロールユニットが接続されていない場合でもドライバーに DSC3 の故障を示すことができるように、マルチファンクションランプはコネクターのスプリングコンタクトを介してグラウンドに接続されます。 このコンタクトはコネクターが接続されているときは開いています。
注意事項
診断中は(= DIS との交信中)システム故障の有無にかかわらず、両警告灯とも点灯します。
ブレーキペダル操作の情報はブレーキライトスイッチを介して DSC3 コントロールユニットに伝送されます。
ASC 制御中にブレーキが操作されれば、ただちに ASC によるブレーキ制御が中止され、インテークバルブが閉じて切換えバルブが開きます。
ABS ブレーキ制御中にブレーキが緩められてブレーキライトスイッチが開くと、ABS 制御も即座に中止されます。
DSC3 の場合にのみブレーキライトスイッチが故障すると、すべてのシステム(ABS、ASC、DSC)がオフになります。
ハンドブレーキが引かれると、この情報はハンドブレーキスイッチを介して DSC3 コントロールユニットに伝送されます。 これによりエンジントルクレギュレーター(MSR)用のスリップ限界値が 20 km/h 増大します。
イグニッションスイッチ位置 2(ターミナル 15)でコントロールユニットの自己診断が正常であれば、ASC/DSC の機能は パッシブボタンで切換え可能です。 ASC/DSC がオフになると、メーターパネルの DSC マルチファンクションランプが点灯します。 ABS はこれ以降も作動可能です。
リアホィールスピード最大値とフロントホィールスピード最小値の間の差が 20 km/h 以下であれば、ボタンを新たに押すと ASC/DSC が再作動します。
E38 および E39 ではアクティブ型回転数センサーが標準装備されています。
アクティブ型 ABAS センサーは、磁界の強さの変化によって交流電圧を発生させるホール原理に基づいて作動し、その周波数がホィール回転数の基準となります。 パッシブ型 ABS センサーとは対照的にアクティブ型 ABS センサーには、固有のセンサーエレメントおよび信号評価用のコントロールユニットが内蔵されています。
従来のパッシブ型センサーに対するアクティブ型センサーの利点:
回転信号は振幅が一定の矩形波信号(ローレベル = 0.75 V、ハイレベル = 2.5 V)、0 − 250 km/h の車速範囲、ホィール回転数に応じた周波数は 0 − 約 1700 Hz の範囲にあります。
アクティブ型センサーの電源電圧(7.6 〜 8.4 V 直流電圧)は ABS/ASC コントロールユニットから供給されます。
メーターパネルエレクトロニクス(IKE)またはエレクトロニックダンパーコントロール(EDC)などの他のコントロールユニットもホィール回転数の情報を必要とします。 このために、該当する回転信号が DSC3 コントロールユニットで処理されます。
回転数アウトプット信号は振幅が一定の矩形波信号(ローレベル < 1 V、ハイレベル> 11 V)で、周波数はホィール回転数に応じており、0 − 1700Hz(0 − 250km/h)の範囲にあります。
ステアリングアングルセンサーはステアリングジョイントディスク前のステアリングスピンドルの下部末端に取り付けられています。
コネクターのピン配列:
ピン No. |
信号 |
---|---|
1 |
12 V 電源(ターミナル 30) |
2 |
12 V 電源(ターミナル 87) |
3 |
CAN (+) |
4 |
CAN (-) |
5 |
グラウンド(ターミナル 31) |
センサーは精度が約 0.7 O の総ステアリングアングル信号を CAN バスへ伝送します。
さらに様々な状態の情報を CAN バスへ送り、ステアリングアングル信号の妥当性についての情報を与えます。
生産ラインの最後の段階またはセンサー交換後は、ステアリングまたはフロントホィールのできるだけ正確な直進位置を DSC3 の自己診断で診断テスターにより初期設定します。 このときセンサーの電気的なオフセットが調整され、センサー内に持続的にメモリーされます(EEPROM)。
またセンサーおよび DSC3 コントロールユニットには、ステアリングアングルセンサーから CAN バスへ送られる識別番号が組み込まれます。 識別番号が違えば DSC3 システムのインプットは行われず、DSC3 診断でステアリングアングルの初期設定が要求されます。
これにより、新製品のステアリングアングルセンサーを採用する際や他の車両で使用されていたセンサーを取り付ける際に、間違ったオフセット値が働くことを防止することができます。
この他にも電気的オフセットのために、DSC3 ロジック回路はトー調整などによって生じたステアリングセンターのオフセットを、走行中連続的に点検します。ステアリングアングル信号の妥当性は DSC3 ロジック回路により点検されます(他のセンサー信号との比較)。
センサーは(EDC ステアリングアングルセンサーと同様) 90 O ずれた 2 個の精密ポテンショメータースライダーから成り、これらのスライダーから 0 〜 約 4.5 V の信号電圧が供給されます。
さらにセンサー内に格納されているロジック回路(CAN モジュール付きマイクロコントローラー)が、各電圧値からその時のステアリングホィールの回転角を計算し、それが妥当であるかどうか(90 O - モニター)をモニターします。
電源電圧が遮断されると(バッテリーのターミナル接続を外した場合など)、センサーロジック回路はその時点のステアリングホィールの回転情報を失います。 この場合は、フロントホィールスピードのスタティック判定により(CAN を介した受信)ステアリングホィールの回転角が測定されます。
総ステアリングアングル信号は DSC3 ロジック回路において車速を正確に測定する(コーナリング時)ために使用されます。
また、オーバーラップされる車両レギュレーター用のインプット信号としても使用されます:
DSC3 のロジック回路はステアリングアングル信号からドライバーの「希望する車両旋回度」を計算します。
説明:
旋回度信号は、垂線軸まわりの車両旋回速度に対応します。
旋回度センサーは運転席シートの下に取り付けられています。
コネクターのピン配列:
ピン No. |
信号 |
---|---|
1 |
マイナス電源(0 V) |
2 |
プラス電源(12 V) |
3 |
センサー信号 |
4 |
基準信号(2.5 V) |
5 |
テスト信号 |
センサーは 0.7 - 4.3 V の信号電圧を供給します。信号電圧と基準電圧間の差は -1.8 〜 +1.8 V の範囲内で変動し、 -50 〜 +50 O /s の旋回度に相当します。
センサーは「イグニッションオン」状態で許容オフセット値に関してモニターされます。
これにより走行中、妥当値に関して以下の信号情報との比較から一定の調整が行われます:
「イグニッションオン」状態のときに、使用される信号が 20 ms 間隔で連続的に測定されます。
センサーの電気的機能の点検用として、2 サイクルごとに電気的オフセットが使用信号にオーバーラップされます。 このオフセットパルスはテスト配線を介して制御されます。 DSC3 コントロールユニットではこのオフセットの不変性が点検されます。
各種の圧電エレメントを介して 14 kHz の振動周波数へ高められる振動シリンダーを使用しています。
左右方向の力、つまりコーナリング時の左右方向加速度の作用を受けるとシリンダーが傾斜します。
電子制御回路を介してシリンダーの傾斜は再びゼロに制御されます。傾斜値はその都度の旋回度の大きさを表していて、その後対応する電圧値 −特性曲線− に変換されます。
測定された旋回速度は、ドライバーが希望する旋回速度(ステアリングアングル情報による)および走行可能な旋回限界速度(左右方向の加速度情報による)と比較されます。
必要に応じて車両レギュレーターが、各ホィールに適切なブレーキ作用を行うことにより車両旋回速度を補正します。
これにより、あらゆる走行条件下(ブレーキ作動、駆動、惰走)で常に安定した走行状態を得ることができます。
左右加速度センサーは、運転席横のドアシルのところ、B ピラーの約 5 cm 前に水平に取り付けられています。
コネクターのピン配列:
ピン No. |
信号 |
---|---|
1 |
センサー信号 |
2 |
マイナス電源(0 V) |
3 |
プラス電源(5 V) |
センサーは、-1.5 〜 +3.5 g の測定範囲に対応する 0.5 - 4.5 V の電圧を供給します。
オフセット値は 1.7 V です(水平面上で車両停止状態の場合)。
初期設定後は、左右方向の加速度信号が車両停止時および走行中に DSC3 コントロールユニットから点検され、他のセンサー信号との比較を通して連続的にその妥当性が点検されます。
左右方向の加速度センサーは容量型センサーです。
加速時、センサー内では固定コンデンサープレートから可動コンデンサープレートが上方に外れます。 この時発生する信号電圧は実際の加速値に対応しています。
左右方向の加速度信号は、DSC3 ロジック回路においてオーバーラップされる車両レギュレータ用のインプット信号として使用されます。 測定された加速度をもとに、規定旋回度が計算されます。 この規定旋回度は、前述の走行条件下でコーナリング限界速度に達した場合でも、安定したコーナリングを行える値です。
プレッシャーセンサーは、フロントアクスル回路のアウトプット、チャージプランジャーユニットのところに取り付けられています。
コネクターのピン配列:
ピン No. |
信号 |
---|---|
1 |
マイナス電源(0 V) |
2 |
プラス電源(5 V) |
3 |
センサー信号 |
このセンサーは 0 〜 250 bar の測定範囲でアナログ信号を供給します。
システムの初期設定後は「イグニッションオン」状態で、ブレーキライトスイッチが作動していない限り常にゼロポイントの調整が行われ 100 ms 後に終了します。
スチール製ダイアフラムの変形がそれぞれ 0 〜 5 V の特性曲線へと変換される圧電測定法
以下の状態に関して DSC コントロールユニットにより 100 ms の間隔で妥当な信号値かどうかをモニター:
電子回路により次の状況がモニターされます:
BLS が作動していない場合、調整状態(ゼロポイント調整)ではライン圧力が一定の時間 5 bar 以下になっていなければなりません。
BLS およびプレッシャーセンサーの信号情報はシステム内で集約されて全体で 1 個の BLS 予備信号になり、電子回路のロジック状態に関して繰り返しモニターされます。
ハイドロリックユニットはチャージピストンユニットとホィールシリンダーの間にあります。
ハイドロリックユニットは ABS 制御中にブレーキ圧を変化させ、ASC または DSC 制御中にブレーキ圧を制御します。
ハイドロリックユニットの構成および機能は ABS/ASC5 のときと基本的に同じです。
DSC 制御中、場合によってはフロントアクスルでブレーキ制御が行われるために、さらに補助バルブおよびプリチャージバルブが必要になりました。
ハウジング内には他に以下のものが内蔵されています:
ターミナル 15 をオンにするとすべてのバルブに 12 V が供給され、コントロールユニットによる制御の場合はグラウンドに接続されます。
4 個のインレットソレノイドバルブは無通電状態になり、2 個の切換えバルブが開いて 4 個のアウトレットバルブと 2 個のフィードバルブが接続されます。
リターンポンプは電子制御モーターにより駆動されますが、このモーターは作動状態の時、ABS モーターリレーを介して電圧を供給されます。
ABS 作動中、ポンプは圧力低下段階で排出されたブレーキ液をブレーキマスターシリンダーに戻します。
ASC または DSC 制御時にブレーキを作動させると、ポンプは必要なブレーキ圧を生み出します。
リターンポンプは、ABS 制御時も ASC/DSC 制御時も一方向にしか回転しません。
ASC/DSC 制御中にポンプがブレーキ圧を形成すると、切換えバルブが閉じてプリチャージバルブが開きます。
開いたプリチャージバルブを介してポンプからブレーキ液が吸入され、ホィールシリンダーへ送られて必要なブレーキ圧が形成されます。 閉じた切換えバルブを介してライン圧が確実に形成されます。
両方の切換えバルブに 1 個ずつ内蔵されていて油圧で作動する圧力リミットバルブは、ASC/DSC 制御中にポンプのフィードプレッシャーが 161(±25)以上に上昇することを防止します。
ASC/DSC 制御時、ユニットのプリチャージポンプはコントロールユニットから直接プラスおよびマイナス側を制御されます。
ポンプが作動すると、チャージピストンユニットの 2 個のピストン間の空間にタンデムマスターシリンダーリザーバーからブレーキ液が供給されます。
また他のラインを通ってこの空間からブレーキ液がリザーバータンクに戻ります。 リターンラインに取り付けられているオリフィスノズルにより、必要な圧力上昇が得られます。
ポンプ内の圧力リミットバルブ(DBV)はポンプ圧の上昇を防止します。 DBV で調整される圧力を超過すると、バルブが油圧回路を開いてポンプにショート回路を形成します。 これによりプリプレッシャーのこれ以上の上昇が抑えられます。
ABS モーターリレーは ABS、ASC、DSC 制御中、ある特定の段階で DSC3 コントロールユニットにより制御されます。
ABS モーターリレーはリターンポンプをオンまたはオフにします。
リターンポンプは、アキュムレーターに蓄えられたブレーキ液を、閉じられたインレットバルブとブレーキマスターシリンダー間のブレーキ回路に戻すか(ABS ブレーキ制御時の圧力低下段階)、あるいはプレッシャーのかかっているブレーキ液を、開いたインテークバルブを通して各ホィールシリンダーへ供給します(ASC および DSC ブレーキ制御時の圧力上昇段階)。
ABS バルブリレーはターミナル 15 以降 DSC3 コントロールユニットにより制御されます。
ABS バルブリレーはハイドロリックユニットのすべてのソレノイドバルブ用の 12 V 電源をオンまたはオフにします。