直噴式インジェクションの層状給気モード

直噴式インジェクションの層状給気モード

層状給気モード(薄い混合気)について 6 気筒の N53 エンジンを例に説明します。新型 4 気筒の N43 ガソリン エンジンも層状給気モードを使用します。

N53(例:N53B30O0)の構造上の基礎は N52 が形成しています。N53 および N54 は直噴式インジェクションを採用しています。ただし N53 は過給式ではありません。さらに N53 は広い作動範囲において層状給気方式(ラムダ 2.5 以下)で駆動されます。6 気筒エンジンはヨーロッパ市場用に開発されました(ACEA:ヨーロッパ自動車メーカー協会)。エキゾースト システムは NOx ストレージ触媒を使用します。

ジェット ガイド式直噴式インジェクション(HPI:ハイ プレシジョン フューエル インジェクション)では以下の場合、自由度が高まります:

出力、トルク、燃費、排気ガスのいずれの面でも改善が可能になります。

層状給気モードによりエフィシェント ダイナミクス(BMW マーケティング コンセプト:EfficientDynamics)が新しいレベルに達します。エンジンは燃料節約時に可能な出力を導き出します。

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コンポーネント簡略説明

以下のコンポーネントを説明します。

直噴式インジェクションのシリンダー ヘッド

直噴式インジェクションの場合、インジェクターはバルブ間の中央で、かつスパーク プラグのすぐそばに配置されています。この位置で、外側に開くインジェクターが燃焼室内で燃料をリング状(中空円錐状)および均等に配分することができます。これにより、より正確な混合気計量が実現されるだけでなく、同時に冷却作用も得られます。その結果高い圧縮比が可能になり、燃焼プロセスの効率が最適化されます。

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インジェクター

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シリンダーヘッド

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ピストン

4

燃焼室

5

スパーク プラグ

6

イグニッション コイル


インジェクター

インジェクターは燃料を高圧で燃焼室内へ噴射します。 インジェクターはニードル ノズル先端を外側に開き、最大 40 マイクロ メーター幅の環状ギャップを形成します。燃料はこの環状ギャップを通って直接噴射され、中空円錐状をなして均一に広がります。 マグネット コイルによる制御に比べて、圧電式制御の利点は、

その結果として燃費も有害物質放出も著しく改善されます。

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インジェクター

2

レール プレッシャー センサー

3

レール

4

低圧フューエル センサー

5

フロー コントロール バルブ

6

高圧ポンプ


圧電素子は電気機械式コンバーターであり、 電気エネルギーを機械的エネルギー(力/距離)に直接変換するセラミックから成っています。 圧電素子は電圧が印加されると膨張して、 ニードル ノズルのストロークが生み出されます。より大きなストロークを得るために、圧電素子は複数の層で形成されます。

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電圧が印加されていない圧電素子

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層状の圧電素子

3

電圧を印加した圧電素子

 

 


NOx センサーおよび排気ガス温度センサー付きNOx ストレージ触媒

窒素酸化物は窒素と酸素のさまざまな結合の総称です。窒素酸化物は、窒素が含まれている空気との全ての燃焼プロセス時の副反応として形成されます。窒素は炭素の本来の燃焼には関与しません。しかし高温の発生と燃焼室内の圧力により、空気中の酸素と反応して酸化が起こります。この場合、主に一酸化窒素(NO)および二酸化窒素(NO2)並びに少量の亜酸化窒素(N2O)が発生します。

温度が上昇して燃焼混合気中の空気量が増えるにつれ、形成される窒素酸化物の割合が高くなります。そのため、層状給気モードのエンジンには NOx ストレージ触媒を装備する必要があります。

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1

ラムダ センサー(プライマリー O2 センサー)

2

HOx センサー

3

排気ガス フラップ

4

NOx ストレージ触媒、バンク 2

5

NOx ストレージ触媒、バンク 1

6

排気ガス温度センサー

7

三元触媒、バンク 2

8

ラムダ センサー(セカンダリー O2 センサー)

9

三元触媒、バンク 1

 

 

NOx ストレージ触媒の構造は三元触媒と似ています。キャリア層の上に、触媒作用をする貴金属および窒素酸化物の中間貯蔵のための素材が取り付けられています。NOx ストレージ触媒は 220 °C 〜 450 °C の温度範囲で作動します。この温度範囲で、窒素酸化物の貯蔵と再生が可能です。脱硫にはさらに 600 °C 〜 650 °C の高温領域が要求されます。この温度領域は排気ガス温度センサーによってモニターされます。再生の制御とモニターはエンジン コントロール(MSD80)が行います。このためにエンジン コントロールは窒素酸化物センサーの計算モデルと測定値を使用します。

NOx センサーは本来の測定センサーおよび付属の電子評価回路から成り立っています。電子評価回路はローカル CAN(ローカル CAN バス)を介してエンジン コントロール ユニットと通信します。

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HOx センサー

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電子評価回路

NOx センサーの作動原理は、広域ラムダ センサーのそれと比較することができます。 ただし測定されるのは窒素酸化物です。測定方法は、窒素酸化物測定を酸素測定から導き出すことを基本としています。NOx センサーは直接電子評価回路と接続されています。

システム機能

以下のシステム機能を説明します。

層状給気モード

ヒント! 層状給気のコンセプトの説明。

層状給気はガソリン エンジン用の方式です。この方式で燃料が噴射されると、スパーク プラグ付近で点火可能な混合気(ラムダ = 0.5 〜 1.0)が形成されます。残りの燃焼室は非常に薄く、点火不可能な混合気(ラムダ = 1.5 〜 2.5)を示します。

直噴式インジェクションの場合、インジェクターは燃焼室内に直接燃料を噴射します。燃焼空気はほとんど絞られずに(スロットル バタフライを介して)吸引されます。燃料は遅れて圧縮行程中に噴射されます。スパーク プラグ付近でのみ、点火可能な混合気がリング状に生じます。燃焼室の大部分は空気と残留ガスで満たされています。余分な空気により排気ガスの成分が生じますが、標準型の三元触媒コンバーターでは排気ガス中の窒素酸化物を低減することはできません。この理由から NOx ストレージ触媒が必要になります。

層状給気での作動はエンジンの全ての作動領域で可能であるわけではありません。以下のような物理的な限界領域が生じます:

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1

拡張された層状給気モード:
ラムダが 1 よりかなり大きい

2

移行領域:
ラムダがほぼ 1 付近

3

均一な作動領域:
ラムダ = 1

 

 


NOx ストレージ触媒の貯蔵と再生

NOx ストレージ触媒の貯蔵容量は制限されています。貯蔵構造体の全体が飽和すると、窒素酸化物をそれ以上抽出することはできません。エンジン コントロールはこの飽和を以下のように検知します:

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1

NOx ストレージ触媒

2

リザーバー素材(バリウム)

3

NOx センサー

 

 

ストレージ触媒の最大貯蔵量が確認されると、エンジン コントロールが窒素酸化物の再生を開始します。この際は混合気がわずかに濃くされます(ラムダ = 0.8)。再生時には窒素酸化物が触媒で還元されます。還元後、濃くされたエンジン作動は終了します。この場合も計算モデルと NOx センサーが使用されます。その際 NOx センサーは排気ガス中の酸素濃度を測定します。再生が終了すると (薄い) から (濃い) への電圧のピークが示されます。

サービスに関する注意事項:

一般注意事項

注意: 高圧の燃料供給装置!

この燃料供給装置に関する作業は、エンジンを冷却した後にのみ許可されます。クーラント温度が 40 °C を超えていてはなりません。この温度を超えると、高圧の燃料供給装置内の残圧のために怪我をするおそれがあります。

注意事項: リペア マニュアルを参照します。

高圧の燃料供給装置で作業を行う場合は、特に清潔さに注意してください。高圧ラインのボルト連結部に少しでも汚れや損傷があると、漏れが発生することがあります。

診断上の注意事項

注意事項: エマージェンシー プログラム。

排出ガス値が異常な場合は、エマージェンシー プログラムが開始されます。さらにエンジンが均質混合気モードで作動します。

以下の 2 種類のエマージェンシー プログラムがあります:インジェクション プレッシャーが 5 bar の エマージェンシー プログラムとインジェクション プレッシャーが 100 bar のエマージェンシー プログラム。

5 bar のエマージェンシー プログラムの考えられる原因:

100 bar のエマージェンシー プログラムの考えられる原因:

注意事項: サービス機能、インジェクター調整。

エンジン コントロール ユニットまたは 1 個のインジェクターを交換する場合、各インジェクターに記載されたコードがエンジン コントロール ユニットで正しいシリンダーに割り当てられなければなりません。診断システムのサービス機能 (インジェクター調整) を実行してください。

注意事項: サービス機能、NOx ストレージ触媒。

エンジン コントロール ユニットを交換する場合、NOx ストレージ触媒の劣化状態と硫化状態を転送する必要があります。

NOx ストレージ触媒を交換する場合、劣化状態と硫化状態を初期化する必要があります。

注意事項: NOx ストレージ触媒の硫化。

無硫黄の燃料にもごく少量の硫黄が含まれます。硫黄は NOx ストレージ触媒の貯蔵容量を低減します。NOx ストレージ触媒が硫化すると、窒素酸化物を抽出することができないため、エンジンは均質モードでしか作動しなくなります。エンジン コントロールは NOx ストレージ触媒の硫化を検知します。脱硫時には NOx ストレージ触媒が 600 °C 〜 650 °C まで加熱され、濃い混合気(ラムダ = 0.94)で作動されます。

NOx ストレージ触媒の加熱には以下の車両作動が必要です:

ディフェクト メモリーが登録される場合(NOx キャタの硫化)、サービス機能を介して頻繁な加熱を作動させることができます。この作動許可は NOx ストレージ触媒の脱硫が終了するまで作動します。

誤記、誤植が生じる可能性があるため、完全な一致を保証するものではありません、また将来予告なしに技術的変更が加えられることがあります。